ひゅるり、ひゅるり、甲高い音を立てて風が吹きすさぶ。
木の葉を道連れにしたそれは、まるで悲鳴を上げるように鳴いている。
底冷えするような冷気が足元から這い上がる感覚。
その冷たさの中に身を置く少年が一人・・・立っていた。
昼間は騒がしいほどに賑やかな学校。
その校庭となれば数々の生徒が行き交っているだろうことは目に浮かぶが、今現在の時刻は夜中。
深夜とも言ってしまえるような時間だ。
当然のごとく、少年一人以外の人影は見つからず、ただ真っ暗な空間に突っ立っていた。
少年は姫純一貴(きすみかずたか)。
この学校に入学したばかりの新入生だ。
とはいえ、この学校に入学式だのというものがあるか分からないし、『中学校』というものに通っていた少年にとって、その言葉が適当かは不明だ。
転入生、の方がしっくり来るかもしれない。
既に慣れ親しみ、独自のコミュニティを築き上げていた生徒たちの中に飛び込んだわけなのだから。
気分としては後者のほうが近い。
ただ、やはり入りたて一年生、という立場からすると、新入生でもあっているのかもしれない。
そんなこれから夢多き少年が、なぜ真夜中の校庭にいるのか。
それは少年自身にも理解できない衝動の性であった。
声が・・・聞こえた。
そう、近い感覚はそれだ。
声が聞こえた気がしたのだ、己にだけ聞こえる声が。
仮宿としているベッドに入ろうかというところ、耳元で囁かれている様な、なんとも言えない疼きが走った。
言葉として捉えられはしない。
だが確実に、何かを語りかけられているような・・・奇妙な感覚。
声の元を辿る様に窓を開けると、手が届くのではと錯覚するほど大きな満月に出会った。
寒々しい夜空に浮かぶ、美しく、どこか暴力的な月明かり。
それを目に映した瞬間、少年は月に『喰われた』。
指先が震えた。
寒いわけではない。
急に、そうだ、本当に急速に拳に血液が集まる。
いくらもしない内に巡る血潮は全身へと至り、体中が熱に浮かされた。
体が熱い、目の奥がちりちりする、我知らず握り締められる拳。
どくどくと熱く脈打つ鳴動がたった一つのことを求めているのだ。
猛烈に、劇的に、果てしないほど強く、あれもこれもすべて
ぶ っ 壊 し て し ま い た い !
痺 れ る ほ ど の 痛 み が 欲 し い !
衝動に突き動かされるまま、少年は外へと繰り出した。
何の当てもなく、ただ導かれるように至った先が校庭だったというわけだ。
しかし、引き寄せられるように夜中の校庭へと至った先、別段何が起こるわけでもなく。
囁かれていたような声も聞こえなくなって、こうして立ち尽くしている。
今はそういったところだ。
体を巡る熱は脳をも侵食し、苛々と募る破壊衝動に知らず、目を細める。
不気味な月明かりがその瞳に映って、ギラリ、と光った。
「ようこそ、クロスリヴァーへ・・・」
ゾクリ
先ほどよりもはっきりと、確実に響く声。
先ほどのを耳元で囁かれていると喩えるならば、今回は頭を鷲掴みにされて聞かされている、といったほどのはっきりした声。
若い、男の声のようにも聞こえる。
唐突に響いた音に背筋を震わせたのは、恐怖か、はたまた恍惚か。
いずれにせよ、少年はその声をいやだ、とは思わなかった。
ようこそというのならば、受け入れろ。
オレの欲を満たせ!
一層興味深げに口角を持ち上げると、校庭の端で動く影。
暗闇の中でも格段に映える白い衣装を身に纏った、人間。
彼が声の主だ、と一瞬のうちに理解した。
彼は何も告げず、背中を見せて校内へと歩いていく。至極、ゆっくり。
本来ならば妖しすぎる誘い、不可解すぎる境遇。
大きな満月が次の獲物を求めて口を開く。
その鋭き牙で仕留められるのは子羊か。
子羊の皮をかぶった狼か。
少年はぎらつく月を背に、校舎へと入っていった。
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